4つの研究テーマ

〜未病を知って未病を治す〜

1. 未病バイオロジーの深化

研究テーマ1:生命現象のゆらぎ(未病)の理解と医療応用

中国最古の医学書「黄帝内経」には、未病の時期を捉えて治すことが最高の医療であると記載されています。興味深いことに、「黄帝内経」より二千数百年を経た現在、未病の重要性が改めて認識されています。すなわち、疾患の発症前や超早期において予防的・先制的医療介入を行うことで、その発症や重症化を未然に防ぐ手段の確立が、社会的に強く求められています。しかしながら、この未病という考え方はこれまでは経験知に基づく概念的なものであり、その存在は科学的には証明されていませんでした。我々は東京大学と共同で、生体信号のゆらぎに着目した数学理論である動的ネットワークバイオマーカー理論(DNB理論)を用いて、メタボリックシンドロームの未病を科学的に検出し、未病関連遺伝子を同定しています。今後、この遺伝子を制御することで、未病に対する効果的な予防・先制医療介入の構築を目指します。本研究は、富山大学未病研究センターおよびムーンショット型研究目標2(内閣府・JST)合原ムーンショットプロジェクトの支援を受けて推進されています。

2. 未病創薬

研究テーマ2:未病研究から発見した免疫代謝調節酵素と創薬

従来の疾病研究は、疾病が発症した状態を解析し、創薬の手がかりを探し出します。一方で、我々は、疾病が発症する遥か前の疾病超早期(未病状態)の解析を行なっています。将来的にはメタボリックシンドロームを視野に、現在、肥満に基づく代謝異常の未病状態の解明と創薬を行なっています。具体的には、マウスに高脂肪餌を食べさせて3日後の超早期の脂肪組織の遺伝子を網羅的に解析した結果、グルタミンをグルタミン酸に変換する酵素グルタミナーゼ1(GLS1)の発現が亢進することに気がつきました。現在、GLS1欠損マウスおよびショウジョウバエを使用して、GLS1と免疫および代謝異常の関係を調べています。さらに、工学部との共同研究で、GLS1阻害活性を有する化合物を合成し医薬品開発を行なっています。本研究は、富山大学未病研究センター橋渡し研究シーズA(AMED)プログラムおよび企業の支援を受けて推進されています。

研究テーマ3:和漢薬から発見した免疫活性化ナノ粒子(ナノソーム)の機能解明とその応用
研究テーマ4:和漢薬から発見した免疫活性化核酸(BiND)の機能解明とその応用

1. 生薬などの植物に含まれる免疫活性化成分は何か?

2. なぜ人は「火を使って」生薬などの植物を煮て飲むのか?

我々は、この2つの「問い」を解決するために、以下2つの着想に至りました。

(1) 植物体が外敵(細菌、ウィルスなど)から自身を防御する、いわば「相手をやっつける」二次代謝化合物を産生することは合目的である。一方で、植物体が外敵の免疫を活性化する成分、いわば「相手を元気にする」成分を産生することは合目的ではない。従って、生薬の免疫活性化成分は、二次代謝化合物ではなく、すなわち一次代謝化合物の可能性が考えられる。

(2) 熱作用により生薬成分が変化して新たに構築される構造物(半人工物)が、薬効成分である可能性が考えられる。
これまでに我々はこれらの条件を満たす2つの新たな免疫活性化成分を発見しています。

1. 複合糖でできた免疫活性化ナノ粒子(ナノソームと命名)
2. 細菌と類似構造を持つ免疫活性化RNA(BiNDと命名)
これら2つの成分は特許出願しています。(特願2016-193235、2018-022501、2018-070032、2020-145500、2018-039359)
今後、これら2つの成分の免疫活性化機序の詳細を解明し、新たな機能性食品、およびワクチンアジュバント医薬品を開発を行なっていきます。
なお、この開発を加速させるために、小泉はベンチャー企業であるレビアスファーマを起業しました。
本研究は、製薬および食品企業との共同研究で推進されています。